『ボールを奪う場所を意図的に限定させてしまうのが、ゲーゲン・プレスという戦術です』
強かったですね。ユルゲン・クロップが率いていたボルシア・ドルトムント。
かつて、ブンデスリーグの2連覇を成し遂げたドルトムントの強さの秘訣は、監督のユルゲン・クロップが選手に浸透させた『ゲーゲンプレス』によるものです。
現在、プレミアリーグのリバプールの監督としてクロップは辣腕を奮っています。
ようやく、リバプールでもゲーゲン・プレスが機能しはじめ、プレミアリーグの強豪と熾烈な上位争いを演じています。
今回はユルゲンクロップのお家芸、ゲーゲンプレスとは何か?それを公開します。
スポンサードリンク
欧州震撼!ドルトムントのゲーゲンプレス!
結論から言って、ゲーゲンプレスとは攻守、いや『守攻(こんな日本語はないですが…)の切り替えを劇的に速くする戦術の事』です。
相手ボールになった時点で、ドルトムントの選手はボールホルダーに数人掛かりでフォア・チェックに向かいます。
ボールを奪い返した後は、すぐさま、ショートカウンターに移ります。
そのショートカウンターは圧巻の一言。
ボール奪取から、間をおかずに相手ゴール前までドルトムントの選手が殺到します。
リバプールでも同じ様な光景が見て取れます。
ゲーゲンプレスを仕掛けられた相手は、守備の態勢を整える前に、次から次へと選手がスペースを突いてくるので、対応に苦労するんです。
気が付いたら、ゴール前で数的不利に持ち込まれ得点を許してしまう…。
ゲーゲンプレスの餌食となったチームは、ブンデスリーグに留まらず、欧州各リーグの名門チームもやられています。
2シーズン前のチャンピオンズリーグ準決勝で、あのジョゼ・モウリーニョ率いるレアル・マドリードもゲーゲン・プレスに成す術がなく、敗れ去りました。
香川真司が所属していた時にブンデスリーグを2連覇に導いた、ボルシア・ドルトムントのゲーゲンプレスは欧州の頂点でも、大暴れする事になり、各チームを震撼させました。
革新的なゲーゲンプレスという戦術方法!
サッカーにおける勝利のコンセプトはシンプルです。高い位置でボールを奪い、失点のリスクを減らし、得点のチャンスを増やすという事です。
言葉にするのは簡単です。しかし、何百億というお金が動くプロサッカークラブが選手を補強し、戦術分析に日々、努めています。
超一流のプロサッカークラブが同じ事を考え、同じ事を阻止しようとしている。だからこそ、上述したコンセプトを実現させる事は困難を極めます。
困難を極めていたんですが、あまりにもゲーゲン・プレスは革新的な戦術ゆえに、そのコンセプトを高い確率で実現させているんです。
高い位置でどうやって、ボールを相手から奪うのか?
サッカーの勝利のコンセプトの一つとして『高い位置でボールを奪う』。
これは困難です。相手陣内の深い位置でボールを奪うという事は、2部、3部のクラブ相手でも難しいでしょう。
何故なら、ボールを奪われそうになると簡単にロングボールを選択するからです。
技術が高いチームは安易にクリアーをしないで、ボールを細かく繋いでくるでしょう。
数人掛かりでボールを奪いに行っても、高い技術に裏打ちされたパス交換で簡単に捌かれてしまいます。
しかも、人数を掛けてボールを奪いに行った結果、自陣内がガラ空きになり、一気に数的不利に陥り、失点のリスクを負う事になります。
ただし、ゲーゲンプレスは高確率で、高い位置から相手ボールを奪う事を高い確率で可能にさせてしまうんですね。
相手ボールになった時がチャンス!そこから仕掛けるゲーゲンプレス!
上述したように、高い位置、つまり相手陣内の深いところでボールを奪う事は限りなく困難です。
では、それを可能にする為にはどうすればいいのでしょうか?
ボールを奪う場所を自分達でコントロールしてしまえばいいのです。
極論で言うと、相手にボールを渡す場所を事前に決めてしまい、その箇所に選手がプレスを仕掛ける準備を行うという事です。
ゲーゲンプレスを仕掛ける基本パターンは、最終ラインから前線への配球からスタートします。
過去のドルトムントで例を挙げます。
典型的なパターンは、最終ラインにいるマッツ・フンメルスが、最前線のロベルト・レヴァドンフスキに目掛けてロングボールを放り込む事から始まります。
この時、そのボールがレヴァドンフスキに収まるか、収まらないか?それは、選手達には殆ど関係ありません。
問題は、最前線のレヴァドンフスキにロングボールが送られたという事。
ロングボールをしっかりと処理して納めるのは、プロの選手でも困難です。
ですので、レヴァドンフスキが上手くボールを処理できず、相手ボールになる確率は十分にあります。
ただ、ドルトムントの選手達にとっては、ここが狙いどころです。
レヴァドンフスキにロングボールが渡った時を合図にゲーゲンプレスがスタートします。
レヴァドンフスキのトラップミス、及び相手との競り合いでボールを奪われたとしても、その位置にドルトムント選手が、激しいプレスを数人掛かりで行う意識が共有されています。
同時にプレスを掛けてボールを奪い返した後、瞬時にショートカウンターを行う一連の動作までもが共有されているんです。
突き詰めるとゲーゲン・プレスの目的は、セカンドボールを確実に抑えることで、ショートカウンターに移りやすくする流れを意図的に行う事なんです。
もう、説明は十分ですよね。この戦術によって、欧州の名門チームは苦しめられる事になりました。
ゲーゲンプレスが機能しなかった場合は?
凄まじい破壊力のあるゲーゲンプレスですが、実戦では毎回、効果的にプレスが掛かる訳ではないというのが現実です。
ただ、ゲーゲンプレスという戦術は、
ボールを奪われてから仕掛けるのではなく、攻撃時から仕掛ける方法です。
味方の守備陣形が整っていない内に仕掛けるプレスではなく、必ず守備陣形が整っている事を確認してから、仕掛ける戦術です。
仮に前線のプレスがかわされたとしても、最終ラインとボランチがしっかりとスペースをケアしているので、決定的なチャンスを相手には与えません。
ゲーゲンプレスが機能しなかった場合でも、チームとしてスペースをケアする意図が事前に共有されているので、決定的な場面やスペースを作らせないんです。
グアルディオラが監督だった頃のバルセロナに通用するか見たかったです。
ゲーゲンプレスが、グアルディオラが監督だった頃のバルセロナに効果があったのか?
それが観たかったです。シャビ、イニエスタ、ブスケッツが中心となる究極のポゼッションサッカーに、ゲーゲン・プレスがどこまで効果を見せるのか?
もう実現する事がないのが残念です。ただ、グアルディオラは同リーグでバイエルン・ミュンヘンを率いていますが、あの頃のバルセロナとは比較が出来ないチームです。
現在のバイエルン・ミュンヘンには、シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタに匹敵するクオリティを持った中盤の選手はいませんので…。
チアゴ・アルカンタラ、マリオ・ゲッツェという優秀な若手がいますが、まだ、彼らの域にまでは到達していません。それどころか、一生、到達できない可能性もあります。
だからこそ、ドルトムントのゲーゲンプレスが、かつてのバルセロナにどこまで通用出来たのか?観たかったですね。
リバプールでも着実に浸透しつつある、ゲーゲンプレス!
ユルゲン・クロップはドルトムント引退し、リバプールを率いる様になりましたが、彼の代名詞でもあるゲーゲンプレスは、このチームに着実に浸透しつつあります。
プレミアリーグ2016-2017の現在、11月の時点でリバプールは首位をキープ。
なだれ込む様に敵陣へ殺到するゲーゲンプレスがプレミアリーグでも炸裂し、近年でリバプールは最も強いチームになっていると思います。
マネ、フィルミーノ、コウチーニョ、ヘンダーソン、ララーナが得点を量産し、誰からでも点が取れる破壊力抜群の攻撃力を誇っている状態です。
走行距離も全チームでNo.1というデータからも分かる様に、前線からひたすらプレスを掛けて、ボールを奪ったら畳みかける様にショートカウンターが小気味よいほど機能してますね。
ドルトムントからリバプールにチームを変えましたが、ゲーゲンプレスは普遍性のある脅威の守備戦術でもあり、攻撃戦術である事は間違いありません。